2011年1月14日金曜日

Tooth wear

う蝕、歯周病に次ぐ第三の歯科疾患と呼ばれるToothwearについて。
「古くて新しい病気」
古くはメッキ工場などの塩酸、硝酸、酢酸など酸を扱う工場の職業病として知られていた。
新しくは飲食物由来、とくに清涼飲料やアルコール飲料の酸によってもたらされている。

*pHとエナメル質の脱灰
エナメル質はpH5.5より低くなると溶け始め、高ければ守られる。エナメル質の脱灰は、酸との中和反応だが、必ずしもpHだけによって決まるものではない。口腔内に唾液の中に溶け込んだ乳酸のHイオンがあれば、ハイドロキシアパタイトが中和反応を起こしてエナメル質は脱灰してしまう。象牙質表面の処理に用いるEDTAはpH8にもなっているが脱灰にも使われる。同様に、口腔内のpHが5.5以上になったとしてもエナメル質は脱灰する。

①外因性の酸蝕症
身体の外部からもたらされる酸によって生じる。
フルーツ pH3~4
ドレッシング pH3~4
野菜 pH4~6
肉・魚 pH5~6
米・パン pH5~7
チーズ pH6~7
食品のpH
炭酸飲料 pH2.2
梅酒 pH2.9
お酢 pH3.1
ワイン pH3.4
スポーツ飲料 pH3.5
ビール pH4.3
紅茶 pH5.5
お茶 pH6.3
牛乳 pH6.8
pH7.0
現在の日本では清涼飲料水の消費量が増加しているので、子供の酸蝕症の増加が懸念されている。

②内因性の酸蝕症
身体の内部の酸によって生じるもの。
(原因)
反復性嘔吐、胃酸の逆流、食物の反芻癖。
反復嘔吐は、拒食症などの摂食障害がポピュラーだが、消化器疾患(消化器潰瘍、食道裂孔ヘルニアなど)薬の副作用(抗腫瘍剤、鉄製剤、強心剤)慢性アルコール中毒や妊娠時のつわりなど幅広い原因がある。
胃酸の逆流は十二指腸潰瘍や胃食道逆流症によって起こる。胃酸のpHは1.0~2.0なので簡単に酸蝕が起こる。
ピロリ菌を除去すると逆流症が増えると言われているが、これは除菌によって胃酸の分泌が正常になるために、食道裂孔ヘルニアをもっているような人の場合に逆流症が増えるよう。

<Tooth wearと酸蝕症の診断>
*問診での注意事項
健康状態、患者の認識、進行状況に関する記録
過去の歯科治療の記録、過去および現在の食生活パターン
パラファンクショナルな活動、その他口腔習癖

①臼歯部より前歯部が顕著
     ↓                ↓
上下のすり減り面が一致      上顎前歯部口蓋側に歯肉からの移行的な欠損がある
     ↓                ↓
  ブラキシズム           胃酸の逆流     
     ↓                ↓
    咬耗               酸蝕

②前歯部よりも臼歯部が顕著
     ↓                       
カップ状、またはクレーター状の欠損がある      
     ↓                       ↓
下顎第一第臼歯がもっとも顕著            上下顎の臼歯部にみられる
     ↓                       ↓
炭酸飲料の摂取                   柑橘類の摂取(皮ごとの摂取が疑われる) 
     ↓                       ↓
    酸蝕                      酸蝕
*炭酸飲料は、頻繁な摂取のほか、口の中に炭酸飲料を溜めて飲み込まない摂取習慣が特に悪影響を及ぼす。
*歯の唇側表面のサンドブラストしたような細かい歯質の消失が見られる場合は、歯磨き剤の誤用を疑う。
*高齢者の口腔内では、咬耗に酸蝕が加わったものや摩耗と咬耗に酸蝕が加わったものなど原因が混合したものが多く認められる。

<酸蝕症の予防と対策>
①原因の除去
外因性酸蝕症の場合には、摂取する酸のコントロール。
内因性酸蝕症では内科的疾患の治療を勧める。

②歯質の強化
歯質の耐酸性を高めるためには、フッ化物の応用に勝る方法はない。
さらに食べ物をしっかりと噛める状態に歯列を回復し、十分に噛む習慣をつければ、唾液分泌は活発になる。唾液による中和作用とともに、清掃後に唾液由来のペリクルが歯の表面に皮膜をつくれば、酸による侵食は進まない。

http://www.ha-suita.com/pdf/seijin-panf004-np.pdf


参考資料:グラクソ・スミスクライン 酸蝕症から歯を守る  聖蹟サピアタワークリニック東京再生医療センター副院長  安田登

2011年1月13日木曜日

MIペースト

MIペーストは、リカルデントがムの有効成分として知られるCPP-ACPが配合された口腔ケア用品。CPP(カゼインホスホペプチド)とは、牛乳から得られる天然由来成分です。ACP(非結晶性リン酸カルシウム)とは、生体が利用できる性状を持ったリン酸カルシウムであり、CPPの働きによって豊富なミネラル(カルシウム/リン)を飽和な状態(高濃度)で口腔内に供給してくれます。

CPP-ACPの効果
再石灰化促進(ミネラル供給)と脱灰抑制
CPP-ACP溶液を1日2回ラットの歯に塗布したところ、う蝕活動性が有意に減少した事が報告されている。歯面にACPが局在する事によりエナメル質脱灰の抑制と再石灰化促進が期待される。CPP-ACPは主に微生物表面、細胞外基質にも局在しているが、プラークに取り込まれる事でカルシウムイオンの貯蔵庫として機能する事が期待される。
知覚過敏緩和(刺激の遮断)
CPP-ACPは露出象牙質を被覆し象牙細管を封鎖する事が示されており、この事は知覚過敏の緩和を説明する。
歯面の滑沢化
ナノ複合体であるCPP-ACPが歯面に局在し、そこから中性イオン対が表層下病変へ拡散する事によりハイドロキシアパタイトの形成が期待され、歯面の滑沢化につながるものと考えられている。

MIペーストの応用方法と注意点
ホームケア
綿棒あるいは歯ブラシに適量(約1㎝、0.3g)とって歯面に塗布し、その後唾液を吐き出さずに3分間そのままの状態で維持し、ペーストが長く歯表面に留まっているようにする。塗布後は30分間飲食を控える。
プロフェッショナルケア
ラバーカップを使用して塗布し、ホームケア同様にその後長く歯面に留まっているようにします。また、個人のカスタムトレーを製作して歯面にアプリケーションを行う事も効果的。

*CPP-ACPはフッ素の存在によってその効果はさらに増強・発現できるものです。
したがってホームケアでもプロフェッショナルケアでもフッ化物入りペースト(酸性は×)を使用した後に応用すると更に効果的。これはフッ化物をも関与する再石灰化によって耐酸性のミネラルが形成される事が、さらに脱灰しにくい歯質の形成につながるため。
注意点
CPP-ACPは牛乳タンパク由来なので、牛乳アレルギーの人には勧められない。

フッ化物歯面塗布

1)フッ化物歯面塗布剤の種類
商品名 形状 配合フッ化物の種類 濃度 メーカー・販売元
弗化ナトリウム液「ネオ」 液状 フッ化ナトリウム 9,000ppmF ナルコーム 中性
フルオールN液 液状 フッ化ナトリウム 9,000ppmF ビーブランド・メディコ・デンタル 酸性
フルオール・ゼリー ゲル状 フッ化ナトリウム 9,000ppmF ビーブランド・メディコ・デンタル 酸性
フローデンA

液状 フッ化ナトリウム 9,000ppmF サンスター 酸性
バトラーフローデンフォームN 泡状 フッ化ナトリウム 9,000ppmF サンスター 中性
*この他フロアーゲルがあり、ゲル状で酸性フッ化ナトリウム。甘い味が苦手な成人の患者さんに使用感が良いそうですが、現在販売中止のようです。

2)フッ化物の種類
フッ化物 組み合わせ可能な研磨剤
モノフルオリン酸ナトリウム すべての研磨剤
フッ化ナトリウム 無水ケイ酸・ピロリン酸カルシウム・不溶性メタリン酸ナトリウム
フッ化第一スズ フッ化ナトリウムに同じ
*どの種類にもう蝕予防効果に差はない。

3)歯面塗布剤の選択
利点 欠点
溶液(液体) 部分塗布を行いやすい。 一般的方法(綿球法)では、塗布時に湿潤状態を保つため、繰り返し塗り付けなければいけない。
フォーム(泡状) 歯間部、隣接面にも入り込みやすい。応用時に誤飲の心配が少ない(使用量が少ない)。 容器の管理に注意が必要。(容器の頭部が乾燥してフッ化物が結晶化してしまうとフォームがきれいにでない)
ゲル(ジェル) 塗布しやすく、歯面への停滞性が良い。塗布状況が明瞭である。 隣接面に入り込みにくい。
塗布後薬剤を拭う操作が必要。

酸性タイプ 年1〜2回の塗布 チタンなどの金属に対して腐食性がある。
中性タイプ 口腔内の補綴状況に左右されずに使用できる。 1週間に1〜2回の塗布間隔で、連続4回塗布を1クールとして年に1〜2クールの塗布が必要。

4)歯面塗布の方法
①歯ブラシ法
歯ブラシの毛先にゲル剤をのせて歯面に塗布する方法。
主な使用薬剤→フルオールゼリー
②一般法
綿球および綿棒に、溶液状あるいはゲル状のフッ化製剤を浸して歯面に塗布する方法。
主な使用製剤→フローデンA、フルオールゼリー、フルオールN液
③トレー法
既製のトレーまたは個人トレーにフッ化物やゲルをのせて歯面に塗布する方法。1度の全額すべての塗布が完了するため時間の短縮が可能。
主な使用薬剤→液体、ゲル状、フォーム状が使用できる。
④イオン導入法
微小電圧を用いて人体を(+)に荷電し、歯の表面からフッ化物イオン(−)を浸透させようとするもの。
主な使用薬剤→中性のフッ化ナトリウムを用い、リン酸酸性フッ化ナトリウムの使用は避ける。

*どの方法でも適切な応用方法を実行すれば効果に差はない。ただし、イオン導入法は効果が低いとの報告もあるよう。
この他ゲルタイプをシリンジにいれて塗布する方法もあります。


参考資料:歯科衛生士のためのフッ化物応用のすべて、サンスター医薬品カタログなど